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注意して用いたい「貧困率」の数値 [労働・賃金]

貧困率」という、少々物騒な用語がメディアに登場するようになりました。
この用語はOECD(経済協力開発機構)から公表されたレポート
Michael Förster and Marco Mira d'Ercole 'INCOME DISTRIBUTION AND POVERTY IN OECD COUNTRIES IN THE SECOND HALF OF THE 1990S, OECD SOCIAL, EMPLOYMENT AND MIGRATION WORKING PAPERS No. 22, DELSA/ELSA/WD/SEM(2005)1, 10-Mar-2005
において取り上げられているもので、
全国民を可処分所得の高い順に並べたときに、
中央に位置した人の可処分所得額の半分に満たない人の数

と定義されています(可処分所得額の平均の半分ではないことに注意が必要です)。

上記レポートでは、OECD諸国の2000年におけるデータを分析し、
(統計の制約から、国によっては200年以外のデータが用いられています)
貧困率を算出しています。以下の図はその国際比較を行ったものです。

図:OECD諸国の貧困率(%)の比較

注:カッコ内は採用したデータの年次。
  OECD24カ国の数値には、ベルギー、スペイン、スイスが含まれていない。
出所:OECDレポートより作成

日本の貧困率は15.3%と、OECD平均の1.5倍であり、
メキシコ、アメリカ、トルコ、アイルランドに次いで貧困率が高くなっています

ただし、この数値はあくまでも各国の国内で見た貧困率
(可処分所得の中央値の半分以下の国民の比率)
だということに注意しなければなりません。
日本国内では「貧困ライン以下」(可処分所得の中央値の半分以下)という層も、
そもそも日本よりも一人あたり所得の小さい国では、
貧困ラインの上に来る比率が高まることになります。

また、各国における所得構造のわずかな違いによっても、貧困率の値は大きく異なります。
あくまで仮定の話ですが、以下のような2カ国を想定してみましょう。

表:貧困率を考える場合のモデルケース(ドル)

出所:筆者作成

A国とB国はそれぞれ11人ずつの人口が存在し、
所得の最も高い人は年間10,000ドルの所得を得ており、
所得の最も低い人は年間4,420ドルを得ているという点では同じです。
また、国全体の所得の合計が同じであり、一人あたり所得の平均も7,127ドルと同じです。

ただし、中央値だけがわずかに違います。
A国の中央値の所得は91,00ドル。そのため貧困ラインは4,550ドルとなるため、
7番目以降の人はすべて貧困層となり、貧困率は45.5%です。
一方、B国の場合は中央値が8,800ドルで、貧困ラインは4,400ドル。
所得が最も低い11番目の人の所得は4,420ドルであり、
B国では貧困ライン以下の人がゼロ(貧困率0%)ということにもなるのです。

要するに、貧困率の議論を行うときには、国際比較はあまり有効ではありません。
むしろ重視すべきは、時間の変化に伴って、
国内の貧困率が上昇しているのか、低下しているのかということになります。

日本の貧困率を世代別に分けたうえで、時系列変化を見てみると、興味深いことが判明します。
まず、貧困率を世代別に見ると、概ね世代が上昇するほど貧困率が高くなっています
つまり、格差は年齢が上昇するほど拡大しているということです。
一方、1994年からの変化を見ると、高齢世代における貧困率は減少しており、
一方で若い世代において貧困率が高まっています

さらに、日本全体に占める、貧困層の年代別シェアを見ると、
必ずしも年齢の高い世代のシェアが高いというわけではありません。
もちろんこれは、各世代の人口に違いがあるということも影響していると思います。

OECDレポートは、国際比較を重視したことから、
データが2000年前後と古いものになっていますが、
日本については、より新しいデータを利用して、
最近の格差の状況がどのように変化しているかを、確認してみたいものです。

表:日本の貧困率の世代別構成(%)

出所:OECDレポートより作成

以上見てきたように、貧困率の議論は、中身をより厳密に分析することが待たれており、
貧困率の数値は注意して用いる必要がありそうです。


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